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温浴施設の建設中止を求める

成田市の行政サービスにも、事業仕分けを行うべき時期が到来した。成田市の財政事情は良好で、成田空港やそれに関連する法人などからの税収があり、財政力指数も20年度は1・544と全国でも有数の財政力をもっている。しかし、昨今の景気低迷もあり、JALの財政破綻をはじめ、羽田のハブ空港化構想など、成田を取り巻く状況は刻々と変化しており、今後も良好な財政が続くとは思えない。周囲を見渡してみても、景気のよい話は聞こえてこないのが現状だ。そこで、市に十分な体力があるうちに、無駄なコストを省き、将来に渡って市民にとって本当に役に立つ施設や行政にしかできないサービスを充実させるべきではないだろうか。

成田市はこれまで様々な公共施設を作ってきたが、中でも2件の巨大な施設が際立つ。まず、平成17年にJR下総松崎駅にほど近い坂田ヶ池の周辺を整備し、総額33億円のコストをかけてキャンプ場付きの「坂田ヶ池総合公園」を造った。吊り橋やアスレチックジム、ジャンボスライダーなど、家族連れが楽しめる設備があり、芝生広場やキャンプ場、植物園など、市営の公園としては充実した内容を誇る。しかし、平日は閑散としており、池の周辺を散歩する人々を見かける程度。市の公表によると年間14700人(1日平均40人)程度の利用者しかいない。しかも市街地からはかなり離れており、車で来ることを前提としていながらも駐車場の数も少ない。本当に、利用者についてリサーチを行ったのか甚だ疑問であり、33億円の造成コストだけでなく、その後の維持管理費用についても公費が浪費されているという懸念を払拭できない。

次に、成田市の赤坂地区には「保健福祉館」という木造平屋建ての建物がある。なんでも、行政が運営する在来木造建築としては日本最大規模の建物だそうだ。敷地も広く隣接する赤坂公園の半分ほどもある。誰もが気軽に利用できる保健・医療・福祉の総合施設がうたい文句であるが、近くに住んでいる市民の方以外に恒常的に利用している人は少ない。もちろん、健康診断など成田市全域からの利用者はあるのだが、この施設でやらなければならないことではない。他に使い道がないから、とりあえず利用しているといった感じが伝わってくる。さらに、在宅介護の支援センターや授産施設、子育て支援、市民の福祉活動のサポートとお題目だけは立派なのだが、こういった施設は一か所に集中させるよりも市内各地に分散した方が利便性の高いものも多い。たしかに、広大な敷地を贅沢に使った木造平屋建ての建物は、バリアフリーで障がい者にも優しい。しかし、駅から結構離れており、車を利用できない人はバスに頼らざるを得ない。利用者のことを考えているのであれば、成田駅そばにある現市役所の余剰スペースを活用して十分に提供できるサービスと見受けられる。市役所内でも無駄をなくすことにより、余剰スペースはいくらでも造ることができるはずだ。

この保健福祉館は、土地と建物合わせて43億8000万円の税金が使われている。さらに、年間の運営費として毎年3億円以上も費やしている。施設の保守点検委託料に5400万円も支払い、それも含めて建物の維持管理費だけでも毎年8400万円に膨らむ。また、この施設で働く人々は、常勤職員が31名、検診や予防接種の際の看護師といった臨時職員が49名もおり、人件費だけでも年間2億3000万円もかかっている(常勤職員1人あたり何と年間650万円)。しかし、年間利用者数は全ての施設を含めて10万人程度であり、その中から恒常的に利用者の多い健康診断を除くと、利用者の数はかなり限定される。この福祉館についても正直、とにかく予算に入れて建物を建てることが目的であり、その後の運用については十分検討しなかったのではないかと考えざるを得ない。

土地の有効活用という視点から見ても浪費であることは一目瞭然である。隣地にボンベルタ・デパート、及び多くのマンションが立ち並ぶ中、これほど広大な土地に利用価値が限定される平屋建ての建造物を造り、その維持費に毎年3億円以上を注ぎ込んでいる。これで、どうやって市民を納得させることができるのだろうか。小泉市長も「土地の有効活用になってない ! 」と嘆いているのだから、事業仕分け的手法で早急に税金の無駄遣いを中止すべきだ。なぜ市長自らアクションをとらないのか、不思議でならない。

これらに加えて成田市は、新泉の工業団地内に新しいゴミ焼却施設と、それに隣接する「温浴施設」を建設しようとしているのである。これまでの古い焼却施設の耐用年数や処理能力をかんがみて、新しい施設を建設する必要性があることは十分理解できる。しかし問題は、焼却施設で発生する熱を再利用するためにわざわざ「付帯施設」を建設する計画にある。市の発表によると、それは温水又は蒸気を活用した「温浴施設」とあり、温水プールや入浴施設などの「レクリエーション施設」であるという。これは正に、バーゲンセールだからというだけで、高額な電車賃を支払って遠くまで買い物にいくようなものであり、結果として損をするということは明らかだ。これまでも多くの税金を垂れ流ししているのにまだ懲りないのか、赤字になることが明白な事業に再び着手してしまったのだ。市長をはじめ成田市議会が、これを中止しようとしないことに、これまた首をかしげてしまう。

そもそも、成田市が排熱を利用した温浴施設を建設・運営する必要があるのかという根本的な議論がおざなりになっているだけでなく、コストについて十分に検討せずに着手するということ自体、愚の極みといえる。しかも、よりによって排熱を利用する施設としてなぜ温浴施設を選択したのか。リサーチしてみれば分かるが、地方自治体が関与した温浴施設は経営難に陥っている例が少なくないため、他の施設同様、維持・管理費として税金を垂れ流すことになるのは明らかだ。結局、これもまた、排熱を利用した施設を新規に建設して政府からの補助金(*1)を活用した予算を組むことが目的であり、それを管理・運用するところまで考えていないことは明白である。排熱を再利用するために、多額の公金を使って建物を造り、加えてその後、膨大な維持管理に纏わる経費も税収入からまかわなくてはならないのでは、本末転倒である。

もちろん、多くの市民が温浴施設を望んでいるというのなら、まだ理解できる。市が公開している情報によると、市民意識調査やパブリックコメント、周辺住民アンケートなどで、温浴施設は上位に挙げられており、市民のニーズが高いということだが、成田市は情報操作をしていると言われかねないような対応をしている。つまり、アンケートの内容が偏っているばかりか、平成17年に行われたというパブリックコメントに寄せられた意見の総数はなんと39件 ! 成田市の総人口13万人の0・03%しかないのだ(*2)。統計学を少しでも知っていれば、そのようなデータは参考にならないことは一目瞭然である。その他のアンケートにしても、はたしてどれだけ市民の意見が反映されているのか非常に疑わしい。

施設を造るために木を切り倒し里山を切り崩し、さらに、施設を利用するために新しい道まで造るというのだ。素朴な疑問として、なぜ、そこまでして人家の少ない山の中に温浴施設を造らなければならないのか理解に苦しむ。それが市民のためというのであれば、土地の整備や建設費用、運営費を明確にしたうえで、それだけの税金を使って本当に造ってほしいと思っているのか市民に訊ねてほしい。

きちんとした運営方針が決まらないまま、またもやコンクリートでできた箱を造ることを優先させてしまうのであろうか?「コンクリートから人へ」がこれからの行政の目指す方針であるべきだ。「市民生活レベルの向上」という視点から、行政がやるべき仕事はまだ多く残されている。例えば、いまだに汚染された井戸水を浄化して飲んでいる市民が大勢いるくらい成田市内でも上下水道の普及率は低く、その他の社会インフラも十分とは言えないことを認識してほしい。限られた税収入や、補助金はもっと多くの市民生活を向上させることに使わなければならないのだ。坂田ヶ池公園しかり、保健福祉館しかり、今度は温浴施設と成田市は三度同じ過ちを繰り返そうとしている。成田市民として、箱モノありきの行政に対して断固として「NO!」と言わなければならない。即刻、温浴施設の建設中止を求める。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部