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温浴施設の建設中止を求める その3

成田市が提唱する「温浴施設」は、新清掃工場の余熱を利用したエコ施設というコンセプトに基づき、しかも、地元住民の要望にも応えるという大義名分を掲げた壮大な計画です。地元住民への配慮、市民の要望といった名目のもとに、着々とプランが進められています。しかしながら、その実態は理想から程遠く、現実的な問題が山積みです。その問題点とは、1.計画してから時間が経ちすぎている。2.構想および設計が古く、現在のニーズに合わない。3.立地が悪く利用者の増加が期待できない。4.土地を含め50億円という高額予算では費用対効果が見込めない。この4点が挙げられます。

これは他の自治体が運営している同様の公共温浴施設の大半は採算が取れず、赤字運営を強いられている事実からも分かるように、とてもリスクの高い事業であり、綿密な運営計画がなければ、税金の無駄遣いになるだけでなく、財政破たんの引き金にもなりかねない危険なプロジェクトなのです。

アンケートの結果は賛成多数?

そこで、実際に審議する立場にある成田市議会議員の方にアンケートを配布し、温浴施設の計画について意見を伺ってみました。対象となる成田市議会議員30名全員へ5月24日に、封書およびFAXで配布しました。 その中で返答を頂けた方は9名、その内、アンケートの設問に回答した方は6名です。3名の方からは「まだ計画段階である」「正確な計画の説明がない」「議会で検討している」ということで、回答を頂けませんでした。また、文章で別途ご意見を送ってくださった方が2名の他、3名の方には、直接お会いしてお話を伺うことができました。

アンケート、及びインタビューの集計結果、市議会議員の一部は、本計画案に反対意見を表明していることがわかりました。 その理由は、民間で運営できるものは、民間でやるのが基本、という原則に基づくものです。また、成田市が箱モノ行政に依存し、とにかく予算を組んで、コンクリートを使った大規模な建築物を造る方向に走りやすいことを危惧する声も挙がっています。反対されている方は、地域振興対策としてはもっと別な形の企画を検討すべきであるという意見にまとめられるようです。

しかしながら、アンケートからの声の大半は、本計画案に賛同するものでした。温浴施設を造ることに前向きである理由としては、1.新清掃工場を受け入れてもらった見返りとしての地域振興策である。2.成田空港B滑走路の北側延長により広がった騒音対策エリアへの補償の一環である。3.市民の健康増進に寄与する施設である。4.採算性を除外視しても、公共性や社会性といった観点から取り組む必要がある。5.市民から新清掃工場に付帯する余熱利用施設の要望がある。6.市民が温水プールを要望している。といった点が挙げられました。

賛成派の議員の方でも、予算に関しては慎重な意見が相次ぎ、50億円という事業規模については費用対効果を含め、規模および内容について調査・議論していくことの重要性を訴える方もおりましたが、ほとんどの方が、現在の予算の規模は見直す必要があると考えるも、採算性を考えるのではなく、行政サービス全体の中で考えることが大事、という見解を示されました。

成田市議の意見に物言いあり

建設予定地に問題はないか?

ごみ処理場は、どの自治体でも、近隣に建設されるのを嫌がられる施設の一つです。しかし、成田には既に稼働しているいずみ清掃工場があり、その周辺は、野毛平工業団地とゴルフ場、里山しかありません。すなわち、今回建設される新しいごみ処理場は新規導入というよりも、むしろ既存施設の建て替えなのです。また現在の老朽化した施設よりも、最新のガス化溶融炉を導入し高温で燃焼させることでダイオキシンの発生を抑え、有害物質の除去装置を備えている、最新型の施設の方が環境に優しく、住民もより安心することができるのです。よって何もなかったところに新規に建設する場合とは事情が違うのです。

地元住民とは誰か?

そうはいっても、ごみ処理場が迷惑施設であることに変わりはありません。それが温浴施設の建設理由の一つである「新しいごみ処理場は地元住民にとって迷惑施設であるため、建設する見返りとしての地域振興策が必要」というものです。ではその地元住民とは誰なのでしょうか。新しいごみ処理場の建設場所は、いずみ清掃工場から300mほどしか離れておらず、周辺には住宅は見当たりません。ごみ処理場の建設予定地に最も近い小泉地区の民家でさえも、直線距離で800m以上離れた場所にあり、成毛地区とも1㎞ほど離れています。つまり、ごみ処理場の近くに住民はいないのです。住民がいるとすれば、それは野毛平工業団地で働いている人々ではないでしょうか。実際に本誌の制作事務所はその工業団地内にあり、しかもごみ処理場に一番近い位置にあります。よって地元住民の意見を聞くのであれば、工業団地で日夜仕事をしている人々も含めるべきではないでしょうか。

地元への恩恵はないのか?

ごみ処理場の新設は、多くの恩恵を地元住民にもたらします。しかし、それらがほとんど語られていません。まず市では平成21年に県道63号線と国道51号線を結ぶ市道を完成させており、さらにその市道とごみ処理場を結ぶ道路も建設中です。これが完成すれば、近隣住民の生活道路環境が格段にレベルアップし、利便性が向上します。しかも道路が整備されることで、地価も大きく上昇するのです。つまり、道路やごみ処理場を建設する名目の為に土地を譲渡しなければならない地権者にとっても、土地を手放す痛みはあるものの、以前の地価とは比較にならない値段で譲渡することができる訳ですから、決して悪い話ではありません。総合的に考えれば道路や周辺環境の整備によるメリットは、土地を売却しなければならないデメリットを上回ると言えるでしょう。

騒音被害の補償に関連するか?

一部の議員は、温浴施設を建設することが、騒音被害地域の人々にとっての解決策として決められている、という見解をお持ちでした。確かに地元小泉地区等は騒音対策エリアとなっており、航空機騒音の問題は地域の住民にとっては悩ましい問題です。そして問題解決の糸口を見つけるのは、容易ではありません。既に大勢の市民が、住み慣れた住居からの移転を余儀なくされたという話を伺っています。こうしたことからも、騒音問題に対する補償が必要なことは十分に理解できます。しかしその移転まで伴う騒音被害の補償が、なぜごみ処理場の横に建設される予定の温浴施設に紐づけて考えられるのか、甚だ疑問です。ごみ処理場の付帯設備として温浴施設の建設と、空港の騒音問題に対する補償は分けて考えるべきでしょう。

市民は温浴施設を求めているか?

小泉地区や成毛地区の住民を取材した際、多くの方が語られたことは「(温浴施設は)近くにあれば利用するかもしれないが、別に無くても困らない」ということです。つまり、地元の方は積極的に温浴施設を望んでいるわけではないのです。とすると、温浴施設の建設を望んでいるのは誰なのでしょうか?賛成派議員の見解は、市民へのアンケートを実施した際、「温水プール」の要望が一番多かった、という点にのみが強調されているようですが、実はこれがナンセンスなのです。アンケートの対象となったのが2000人、回収数も1033件と少なく、とても市民の意見を代表しているとは言えません。 また質問内容は、今回の温浴施設の建設についてではなく「成田市に希望するスポーツ施設」というもので、建設される場所、規模、予算、内容等、それらをきちんと説明した上でのアンケートではないのです。その質問に対し、公共施設として温水プールがあったら良い、と考える市民がごく少数いたからといって、それを根拠に「市民は温浴施設を求めている」と結論づけるのは無理があります。また、このアンケートで市民が希望したのは「温水プール」であり、「温浴施設」ではないのです。

企画と予算の見直しは誰が行うのか?

予算についても、「費用対効果をさらに議論する」「事業規模には議論の余地がある」「公共事業であり、採算性を考慮したものでないが、過度な事業費を容認するものではない」といった意見を見る限り、総予算50億円については、見直すべきという意見を持つ議員が多いようです。しかし、本当の意味で見直すならば、一旦温浴施設の建設計画を白紙に戻すべきではないでしょうか?税金を無駄にしないためにも、また将来、経営難に陥り閉鎖するようなことを避けるためにも、なし崩し的に建設が始まってしまうことだけは絶対に避けなければなりません。

まず本当に温浴施設を造るべきか、その為にどれほどの予算を組むことができるか、それらの概略を固めた上で、施設の内容および運用方法についてもきちんとプランニングを行うべきです。現状の市側の計画では、施設の概要は決まっていますが、その経営管理や運営方法については何も提示されていないのです。

マスタープランは存在するのか?

結局、清掃工場の余熱利用施設の建設ありきで、計画を推し進めていることが問題の根源なのです。そのため、冷静に見つめ直し、優れた施設を企画し、市民の合意を得て建設しよう、という前向きな取り組みではなく、ごみ処理場の建設に対する振興策や、騒音地域の住民に対する補償といった話を持ち出すことに終始し、議会や市民がなんとなく反対しにくい雰囲気が作られているにすぎません。なぜ多くの議員が、総予算50億円にもなる大規模な温浴施設と付帯施設の建設を続行することにそこまで固執しているのか、理解に苦しみます。

付帯施設の計画書を見る限り、場所、施設や設備の内容などに多くの問題を抱えており、魅力に欠ける施設であり、市民の利用頻度も限られ、費用対効果が著しく悪い施設となるのは火を見るよりも明らかです。更には、毎年巨額の赤字を生み出すだけの厄介者となり、市の財政を圧迫することでしょう。また、今回のプロジェクトでは約12haもの広大な敷地が造成されることになります。自然の木々を切り倒し、山を削ってまで建設する必要がある施設なのでしょうか?

今からでも一旦計画を白紙に戻し、市民にとって本当に必要な行政サービスとは何かを問い、多くの市民の声に耳を傾け、再度検討し直すべきです。今こそ、将来の成田にとって「負」の存在にしかならないこの計画に対して、異議を唱えるべきなのです。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部